荻窪の人気カレー専門店・吉田カレーの店主に聞く | なみじゃない、杉並! -中央線あるあるPROJECT-

荻窪の人気カレー専門店・吉田カレーの店主に聞く

東京でカレー店が多く集まる街と言えば神保町や下北沢などが有名ですが、我らが荻窪も、クオリティの面では負けていません。そんな荻窪で、全国でも屈指の名店と名高い「トマト」と双璧をなしているのが、この「吉田カレー」。今回は、個性的な(?)貼り紙やSNS投稿などでも話題を振りまく店主・吉田貴宏さんに様々な角度から話を伺い、人気の秘密を探りました。

カレーはトッピングなどを自由にカスタマイズできる。こちらは、辛さmix+ライス並盛1,300円+国産豚の煮込み350円+中華アチャール150円。

「吉田カレー」を始めるまで

―本日はお忙しいところありがとうございます。まずは店主の吉田さんのことからお聞きしていきたいと思います。ご出身はどちらですか?

吉田:東京の板橋です。

―子どもの頃の思い出のカレーなどはありますか?

吉田:給食のカレーが好きでしたけれど、そのくらいですね。外に食べに行くとかはなかったですね。

―では、大人になって、「これは美味しい」と衝撃を受けたようなカレーはありますか?

吉田:全然ないですね。

―カレー屋を始めようと思ったきっかけはなんでしたか?

吉田:それは、他で働けなかったからで……(笑)。中卒で、ずっとバイトをしていました。あと、音楽はやっていたんですけれど。

―おお、それはいつ頃ですか?

吉田:高校のときからですね。バンドでベースをやっていました。まあ高校は途中で辞めましたけれど。

―アルバイト先は飲食店だったのですか?

吉田:はい。飲食が多く、仕事として料理を覚えざるを得ない状況でした(笑)。カレーの専門店というわけではないんですけれど、そういうのに近いお弁当屋さんがあって、そこでバイトをしていたときに今のベースとなる欧風カレーの作り方を教えてもらいました。というか、仕事でやらされていたんですけれども(笑)。配達のバイトだったんですけれど、仕込みも手伝わされて、それで覚えていって自分でも作るようになったんです。

―それはアルバイト先ではなくご自宅で、ですか?

吉田:そうですね。

―段々と料理の面白さに目覚めてきた、という感じですか?

吉田:料理を作ることは好きで、ちょこちょこ作ってはいたんですけれど……そこで食べたカレーがすごく美味しかったんです。最初は、普通に市販のルーを買ってきて作っていましたが、それがやっていくうちにルーを使わずにスパイスを使ったりして。ずっと作っているうちに、やっぱりカレーを作るのが好きなんだなあと思うようになってきました。別にやりたい仕事もなく、年齢も30代半ばになり、仕事も続かず……(笑)。

―その間、音楽活動は並行して続けていたんですか?

吉田:そうですね。でも、途中で飽きて辞めましたけど(笑)。

―(笑)。音楽とカレーを作るのは似ている、と仰っていたカレー屋さんを取材したことがあります。

吉田:まあ、似ているっちゃ似ていますね。でもだいたい世の中、何でも通じるものがあるんじゃないかと思いますけれどね。基本のものがあって……まあでも、似てますね(笑)。

−カレー作りに夢中の頃、カレーの食べ歩きなどはされていたのですか?

吉田:しません。たまに外で食べても、そこまで美味しいなと思ったことはなかったので。もちろん有名なお店は何軒か行ったことはあるんですけれどね。でも、ラーメンは好きなので食べ歩きますよ。自分で作れないですし(笑)。

―なるほど(笑)。そして2011年、この店を荻窪にオープンしました。荻窪で始めてみていかがですか?

吉田:地元が板橋で、最初は地元でやった方が知り合いも来やすいし、良いかなとも思ったんですけれど、あまり甘えたくなかった。あと、成増なんかも良いなと思っていたんですけれど、成増とか練馬とかって、テナント代がシャレにならないくらい高かったんです。普通に繁華街レベルといいますか。

―そうなんですか。元々この辺は地の利があったのですか?

吉田:いえ、一回しか来たことがなかったんですよ。たまたま入った不動産屋で紹介されたのがここでした。何軒か見ていく中で、ここが探していた条件に合ったのですね。

素材をとことんこだわり抜く

―料理についてお伺いします。平凡な質問で恐縮ですが、食材や製造工程のこだわりを教えていただけますか?

吉田:そうですね……毎日食べても飽きが来ないものを作る、添加物などは使わない、出来合いのものも使わず全て素材の組み合わせで作る。

―食材はいかがですか。野菜ですとトマトが一番ポイントになるのでしょうか?

吉田:付き合いのある八百屋さんがすごくトマトに強いんです。今はそこからトマトを買い、店でなく厨房の広い工場で仕込みをしています。前は手っ取り早いのでトマトピューレなんかも使っていたんですが、自分でトマトを煮詰めるほうが、良いトマトを自分で選べますし、色々とコントロールできますよね。

―その八百屋さんとはどのようにお付き合いが始まったのですか?

吉田:すぐそこにある八百屋ですよ。アキダイさんです。

―あ、青梅街道沿いの!?

吉田:そうです。僕の工場は西東京市にあるのですが、アキダイの本店が練馬区の関町にあって、比較的近いんですよ。社長がいつも良くしてくれるんです。

―良い関係を築いていらっしゃるのですね。お米はいかがですか?

吉田:お米は青森県産の「まっしぐら」という、ちょっと硬めのものを使っています。それを減農薬でやっているところがありまして。それの3分づきと玄米をブレンドしています。

―玄米がアクセントになっているのですね。

吉田:やっぱり白米だと消化が早いので、血糖値がどんと上がる。でも、3分づきと玄米ですと、食物繊維があるので血糖値は穏やか。実際に友達が血糖値を計って試してみていましたね(笑)。

―素敵なお友達ですね(笑)。それにしても、トマトにせよお米にせよ、そこに行き着くまで色々と試行錯誤などもあったろうと想像できます。

吉田:やっぱり日々作っている中で……ですよね。お米に関しては、最初は白米だけだったのですが、お米屋さんに「こういうのがあるよ」と教えてもらったりしたのがきっかけですね。分づき米って、お米屋さんの腕がすごく出るらしいんです。玄米から白米に精米していく途中の段階で止める、それが3分、5分、7分とあるんですけれど。7分だと白米に近いのかな。それの3分で止めてもらっているんですね。

―「このくらいだと吉田さんのカレーに合うよ!」と提案してもらっているわけですか?

吉田:そうですね。友達にも聞いてみました。段々と分づき米だけにしてみて、その後に玄米とブレンドしてみても良さそうだなと思って。で、今に至るという感じですね。今のところ、ライスの部分はこれがベストかなと思っています。

―やはり大事なのはそうした健康面への配慮ですか?

吉田:それはそうです。食事ってそのためのものだと思いますし。美味しければなお良いわけですけれど。まずは身体に良いこと。そして、毎日食べても飽きないこと。まあ、さすがに僕はもう飽きてますけれど(笑)。

―そんな(笑)。そして色々と追求されていく中で、ご自分の好みの味につなげていくという感じなのでしょうか?

吉田:そうです、僕の好みですよ。それしかない。一応お客さんの意見も聞きますけれど。

―好みに従って味を整えていく。

吉田:例えばカレーにはバナナも入れているんですけれど、分量は決めていません。良い品質のバナナが入荷したとき、そうでないときとありますし。そういう状況によって、都度調整している感じです。バナナは、ほとんどが南米産か東南アジア産なんですけれど、僕の好みは東南アジアです。どっちも良さがありますが、全然違うんですよ。やっぱりそれでカレーの雰囲気も変わるんですが、そこまで気づいている人はいない(笑)。

―そこを気づくのはハードルが高いですよ(笑)。

吉田:土の質が違うのか、南米の方がすごくねっとりした感じです。南米でも、低地と高地とでも違うと思いますし。

―それはバナナを使ううちにわかるようになってきたのですか?

吉田:箱に産地は書いてありますから。

―でも、低地か高地かまでは書いてないですよね。

吉田:まあ、確かにそこまでは。でも食べていくうちに、フィリピン、タイ、ベトナムの方が好みだなと思っていたんですけれど、エクアドルとかの、嫌なねっとり感が東南アジア産にもたまに出ることがあるんです。だから、そういうときはたぶん、東南アジアの高地バージョンなんだろうな、とか思いながら使っています。バナナは奥が深いです。

―深い世界ですね。トマトはどうですか?

吉田:トマトは八百屋さんの言う通りにしています。いいよ、と言われて食べたら美味しいし、煮詰めてみても本当に単純に美味しい。

―アキダイさんを信頼していらっしゃる。

吉田:もちろんです。

Twitterを使いこなす

―今ではいつも行列のできる名店として、特にネットで話題の吉田カレーさんですが、オープン当初はどんな様子だったのでしょうか?

吉田:最初のうちはずっと潰れそうでしたよ(笑)。

―え、そうなんですか(笑)?

吉田:店内の棚に『ワンピース』とかの漫画がいっぱい入っていたんですけれど……初めて飲食店を開いて……何をして良いかわからないじゃないですか。宣伝の仕方とかも全然知らないし。でも、取り敢えずお店には漫画を置きたかったんですよ。漫画を読みながらカレーを食べたかった、というのもあって。最初の頃はソファー席もあって、お客さんも来なくて暇なので、営業中もずっとそこに座って読んでいたんです、『ワンピース』を(笑)。で、他にも買い足していって、オープンして1年目の終わりくらいかな、ちょうど『ワンピース』を読み終わって……そろそろちゃんとやらないとやばいかなって(笑)。

―漫画に夢中になってしまっていたと(笑)。

吉田:お客さん、来ないなあと思って(笑)。そりゃあ、宣伝もしてないから誰も来ないですよね。1日3,4食しか出ないときとかもありましたし。ちゃんとやらないと潰れちゃうなと。

―そこから宣伝のためにSNSを始められたのですか?

吉田:そうですね、やっぱり知ってもらわないと駄目じゃないですか。最初はmixiから、それからTwitterとFacebookを始めましたね。

―吉田カレーさんと言えばSNSをフル活用されているというイメージがあります。そこから次第にお客さんも増えていくのでしょうが、ターニングポイントはなんだったのでしょうか?

吉田:ずっとひとりでやっていると、愚痴を言う相手もいないじゃないですか。今日こんなやつが来た、とか(笑)。そういうのをTwitterで言い始めたら、面白かったのか、ちょこちょこフォロワーが増えていきました。今思うとそういうのがきっかけだったのかなあ。

―おお、やはりSNSから盛り上がっていったんですね。

吉田:そうですね。なにかテレビの取材がきっかけとなって、みたいじゃなく。Twitterの力は大きかったのかもしれませんね。

―以前、当プロジェクトと「たべあるキング」がコラボしたグルメコンテストがあって、その荻窪編で吉田カレーさんにも出ていただき、結果として一位を獲得しました。そのときの推薦人がカレーライターの「はぴい」さんでしたが、そうした専門のライターさんがSNSでお店について発信する、というようなこともあったのでしょうね。

吉田:ありましたね。「はぴい」さんもTwitter経由だったかな。カレー関係の本を書いているライターの方とかを片っ端からフォローして相互フォローになって、知り合っていったみたいな。

―そこからじわじわと具体的な取材などにも広がっていったわけですね。

吉田:そうですね。

―SNSを活発に使われていて、今の時代の飲食店が見習うべき要素が多いなと感じます。

吉田:やっぱり宣伝しないとお客さんは来てくれないですし、そういったSNSは無料で使えるし。こんなに良いものはないじゃないですか。広告宣伝費にお金をかけなければ、その分食材にお金をかけられるじゃないですか。それが美味しかったら、口コミで広がっていきますからね。

―今後もこのスタンスで続けていきますか?

吉田:はい。でも、嫁には、Twitterであまり言い過ぎるなと言われますけれどね(笑)。あまり怒らないように日々気をつけています(笑)。

―(笑)。

吉田:一時期、文章とか思うがままに書いていたことがあって(笑)。言葉尻とかも全然気にせず書いていたので、友達にも、もうちょっと気をつけた方がいいんじゃないのって言われたこともありました。

―でも、書かれている内容をよく読んでみると、無礼なお客さんに対しての怒りだったりするので、店主さんとしては当たり前の感情なんじゃないかなと思って拝見していました。それでも怖そうだと思っていましたが(笑)。

吉田:誰でも彼でも来られちゃうと……変な客には来てもらいたくないじゃないですか(笑)。

―多かれ少なかれ飲食店の方はお客さんに対して思うことはあるわけですよね。でもそれを言わない方が圧倒的に多い中、吉田さんはストレートに言っちゃうから目立っちゃう、というのもある気がします。

吉田:ええ。飲食で働いていたら、やっぱり、あのお客さんはこうだったよね、なんか嫌な態度だったよね、とか話し合ったりするわけですよ。……だからなのかわかりませんが、Twitterのフォロワーに飲食店の方は多いですね(笑)。

―やっぱり(笑)。共感できるところがあるんでしょうね。今は貼り紙でもすごく主張されているわけですが、変なお客さんは少なくなりましたか?

吉田:はい、今は非常に少ないです。静かにしてくださいと言うわけでもなく、私語禁止と書いているわけでもないですが、みなさん黙ってきちんと味わって食べてくれる環境ができています。まあ、ひとりのお客さんが多いからなんですけれどね。僕も話しかけないし。僕はよくラーメンが好きで食べに行くんですけれど、店員になにか話しかけられたらウザいじゃないですか。

―そうですよね。

吉田:黙って食べたいじゃないですか。お腹も空いているし。カレーなんかもぱっと食べてぱっと帰るもんだと思っているんで。だからこっちも話さないから、店内しーんとしています。

―満席でも静か。

吉田:静か。前は店内に待合席とかあったんですけれど、みんな黙っています。ひとりだから当たり前なんですけれどね。でもお客さんに聞いたら、静かな雰囲気が好きなんだという反応が圧倒的に多かったんですね。だからそういう意味では、勝手にこういう雰囲気が作られてきた、というか。

―なるほど。テーブル席ではカトラリーケースなどのところに「移動禁止」とテープが貼られていますが、こういうのは?

吉田:いや、それはもう面倒くさいんで(笑)。ひとりでやっていたから、ぐちゃぐちゃになったら直しに行かなきゃいけないじゃないですか。だから常に元の位置に置いてくれていれば、手間も少なく済むので……。一時期、離れたテーブル席は使わないでカウンターだけにしていたことがあったんです。そうすると、わざわざそこまで行かなくて済むから。でもそのこともTwitterでアンケートをとったら、「セルフでもいいから席を増やして欲しい」と要望があって変えていきました。

寝っ転がってお金を稼ぐために

―合理的でありながら柔軟ですね。素晴らしいです。さて最後は、お店の今後のことについてお聞きしていきたいと思います。

吉田:寝っ転がってお金が入ってくるのがいいなと思います(笑)。なんとかそうならないかな、と思っています。

―そうきましたか(笑)。

吉田:それはさておき、前々から友達になにか一緒にやりたいねと言われていたのですが、いよいよそれがレトルトカレーを作りたいと具体的になってきました。そのとき、僕の方はこの店が手狭になってきていたので、仕込み場を欲しいと思っていました。先ほど話した工場は、そのタイミングで、じゃあ一緒にできる場所を持とうとなり、レトルト工場兼仕込み場となるよう作ったんです。そこで仕込みをしつつ、レトルトカレーも僕が作る。あとはパートさんに詰めてもらうのですが……そういうシステムができれば、寝っ転がっていても売れる(笑)。

―そこに話がつながっていくのですね(笑)。でも、寝っ転がっていたいとおっしゃいますけれど、そういう方が作るカレーじゃないですよね。こだわり方が半端じゃない。平均的な睡眠時間はどれくらいなんですか?

吉田:一時期はずっと4時間を切る感じでしたね。

―そうでしょうね。ずっと起きている間は、というか、休みの日も仕込みをずっとやっている感じなのでは?

吉田:そうですね、ほぼ毎日です。

―働きたくないと言うけれど……。

吉田:働きたくないから頑張る(笑)。

―それは将来的に?

吉田:近い将来働かないために、今、頑張っています。早く寝っ転がっていてもお金が入るようになりたいです(笑)。

―となると、吉田カレーというこのお店自体もいつまであるかわからない?

吉田:お店にはずっと立っていたいと思うんですけれどね。本当、それはどうなるかわからない。

―お店を営む、という行為そのものはお好きですか?

吉田:好きな面もありますし、でもあんまり忙しいのは好きじゃないし(笑)。でもお金は好きだし(笑)。

―お金を貯めたら何がしたいですか?

吉田:いやあ、特にはないですね。……寝たいです(笑)。

―(笑)。寝っ転がって漫画を読んで。

吉田:そうですね、それがいいです。

―2011年オープンですから、今は……。

吉田:9年目です。

―とすると次は10年の節目ですね。そこに向けてはいかがですか?

吉田:よく持ったなあ、という感じで(笑)。まあでも、深くは考えていないんですけれど、常になんとかなるなあとは思っています。何に関しても。お店も、よっぽどのことがないと潰れないと思うんですけれど。荻窪も好きですし、このくらいの広さのお店もちょうど良いというか。

―お店を広げていきたいなんてことも思わないですよね?

吉田:はい。あまり広げちゃうと、目が行き届かなくなるというか。そういうのは好きじゃないです。全部自分の思うとおりにやりたいというのがあるので。……独立する人はみんなそうだと思うんですけれどね。わがままに仕事をしたいというのがあるので。……それが強いのが、貼り紙に出ているのかな(笑)。まあ、しゃべるのも面倒くさいですし、書いて貼っときゃいいや、と。そんな感じです(笑)。

吉田カレー
住所 杉並区天沼3-8-2 2F
電話 非公開
営業時間 11:30〜13:50 17:30〜20:00 ※土曜のディナー営業は18:30〜20:30 限定メニューのみ
定休日 水曜・木曜・日曜・祝日

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※本記事に掲載している情報は2019年10月01日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。