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泉麻人さんと巡る 荻窪歴史文化スポット

東京をモチーフとした著作を多く持ち、まち歩きの達人として名高いコラムニスト・泉麻人さん。今回は、そんな泉さんと一緒に荻窪の歴史スポットを巡ります。荻窪は、駅南口に文化人らが暮らした痕跡が多く残り、歴史の香りを深く感じられる街。「散歩するだけで、なんとなくリッチな気分になるこの界隈は、松本清張の昭和30年代の作品に“悪徳官僚の家”や“黒幕の愛人宅”などとしてしばしば描写されているんですよ。当時、練馬に住んでいた清張は、この周辺をロケハンしにやって来ていたんでしょうね」。このようなうんちくをたくさんお持ちの泉さんに導かれ、晴天の荻窪を歩きます。

「明治天皇荻窪御小休所」から「西郊ロッヂング」

まずは歴史的建造物を眺めて行きましょうと、最初に向かったのは「明治天皇荻窪御小休所」。元は、明治天皇が小金井の観桜会に出かけるときなどに休息のため立ち寄った中田家の屋敷で、現在は付近に長屋門が移築復元されています。ここには見事な桜の木も植わっており、界隈の隠れた花見スポットでもあります。

少し東に歩みを進めると、登録有形文化財にも指定されている「西郊ロッヂング」が見えてきます。レトロな外観が印象的ですが、泉さんによると「1931年に高級アパートメントとして開業され、その後料理旅館になって、現在は一部を事務所に貸しながら営業が続けられている」とのこと。開業当時は高級アパートメントゆえ、裕福な学生や軍関係の技師などが入居していたそうです。隣接する旅館西郊も現役で営業しており、昭和の雰囲気を味わうにはおすすめのスポットです。

荻窪駅南口から東に向かって徒歩約3分、住宅街に忽然と立派な長屋門が現れます。

荻窪駅南口から東に向かって徒歩約3分、住宅街に忽然と立派な長屋門が現れます。

西郊とは「昭和初期の中央線郊外を象徴するフレーズ」だと教えてくれる泉さん。

西郊とは「昭和初期の中央線郊外を象徴するフレーズ」だと教えてくれる泉さん。

明治天皇荻窪御小休所
住所 杉並区荻窪4-30-16
西郊ロッヂング
住所 杉並区荻窪3-38-9

笹の葉が揺らぐ音にも魅了される「大田黒公園」

続いてやって来たのは、近年は紅葉ライトアップで有名な「大田黒公園」。小さな総ヒノキの正門をくぐると、樹齢100年を経た壮大な銀杏並木が。園内に入ると、都会の喧騒から離れた美しい和の空間が広がります。公園の管理を担当している箱根植木株式会社によると、公園をデザインした造園家・伊藤邦衛は、笹の葉の揺れる音までも計算していたとのこと。四季によって美しく彩られる植物を堪能できるよう、庭園中心に芝生地の空間が取られ、水は裏の池井戸から木立の間を流れて錦鯉が泳ぐ池に注がれています。ドビュッシーやストラヴィンスキーの名を初めて日本に紹介したとされる音楽評論家・大田黒元雄の仕事場は記念館として開放。1933年に建築された建物で、展示室には愛用のピアノで演奏された音楽が流れており、当時には珍しい西洋風の室内やアンティーク家具と相まってノスタルジックな雰囲気を味わうことができます。

銀杏並木を抜けて園内に向かう泉さん。

銀杏並木を抜けて園内に向かう泉さん。

年間入場者数は、2016年は15万5000人、2017年は20万5000人と、メディアでの紹介やSNSの影響などで急激に上昇中。四季折々、美しい姿を見せてくれます。

年間入場者数は、2016年は15万5000人、2017年は20万5000人と、メディアでの紹介やSNSの影響などで急激に上昇中。四季折々、美しい姿を見せてくれます。

ピンク色の壁が印象的な記念館。

ピンク色の壁が印象的な記念館。

室内には、スタインウェイ社製のピアノ、大田黒の資料や写真、蓄音機などが展示されています。

室内には、スタインウェイ社製のピアノ、大田黒の資料や写真、蓄音機などが展示されています。

紅葉のライトアップイベント時の様子。息をのむ幻想的な美しさです。

紅葉のライトアップイベント時の様子。息をのむ幻想的な美しさです。

大田黒公園
住所 杉並区荻窪3-33-12
電話 03-3398-5814
営業時間 9:00〜17:00(入園は16:30まで)
定休日 年末年始(12月29日〜1月1日)

日本現代史上重要なスポットのひとつ「荻外荘(てきがいそう)」

次は、国の史跡である「荻外荘」へ。ここは、昭和戦前期に総理大臣を3度務めた政治家、近衛文麿の別邸。在任時の1940年に「荻窪会談」という名で知られる会談が開かれて、ドイツ・イタリアとの提携強化を含む基本方針が話し合われ、1945年12月には、拘置所出頭を発令された日の早朝に自決したという現代史における重要な場所のひとつです。暫定開放されている南側敷地((仮称)荻外荘公園)以外は非公開となっていますが、今回はその部分の敷地内(建物内を除く)を特別に見学させていただきました。泉さんは、「邸宅の主はこの高台からどんな風景を見ていたのだろう」と、近衛が自決した自室の前に立ち、眼下に広がる景色を見渡します。この「荻外荘」は、現在、豊島区に移築された邸宅の一部を荻窪に再移築するための取り組みが進められています。

現在暫定開放されている「(仮称)荻外荘公園」の敷地。

現在暫定開放されている「(仮称)荻外荘公園」の敷地。

みどりの屋敷林に覆われた敷地の中を進んでいくと、歴史の重みを感じさせる「荻外荘」が現れます。自決した自室は今も当時の姿をとどめています。

みどりの屋敷林に覆われた敷地の中を進んでいくと、歴史の重みを感じさせる「荻外荘」が現れます。自決した自室は今も当時の姿をとどめています。

家族から「殿様の間」と呼ばれていた近衛の自室前に立つ泉さん。当時は、ここから富士山もよく見えたそうです。

家族から「殿様の間」と呼ばれていた近衛の自室前に立つ泉さん。当時は、ここから富士山もよく見えたそうです。

荻外荘敷地から見た現在の景観。購入当時の敷地は、善福寺川対岸まで拡がっていたといわれています。

荻外荘敷地から見た現在の景観。購入当時の敷地は、善福寺川対岸まで拡がっていたといわれています。

(仮称)荻外荘公園
住所 杉並区荻窪2-43
営業時間 9:00〜17:00
定休日 なし

四季折々の草花と俳句を楽しむ「角川庭園」

2005年、俳人で角川書店を創設した角川源義(げんよし)の旧邸宅を区が遺族から寄贈を受けて整備し、2009年に区立公園として開園されたのがこの「角川庭園」です。近代数寄屋建築の木造2階建ての建物は国の登録有形文化財にも登用され、現在は「幻戯山房(げんきさんぼう)~すぎなみ詩歌館~」として一般開放。書斎だった部屋にゆかりの品や俳句などが展示されているほか、句会等を催せる詩歌室や茶室の貸し出しが行われています。庭園には、梅(春)、野いばら(夏)、マユミ(夏・秋)、ビワ(夏・冬)など、俳句の季語になる四季折々の草花が植えられ、正門に入ってすぐのところにある一見南国風の芭蕉の木は、庭園のシンボル。また、30メートルほど続く散歩道になっている石畳の小径は、さまざまな草木が育ち、林の中を歩くような趣きがあります。

正面から見た旧邸宅。無料で入場できます。(詩歌室や茶室の利用は有料です。)

正面から見た旧邸宅。無料で入場できます。(詩歌室や茶室の利用は有料です。)

庭に面した展示室には自然光のきれいな光が注がれていました。

庭に面した展示室には自然光のきれいな光が注がれていました。

松尾芭蕉の俳号の由来でもある芭蕉の木。バナナのような実をつけます。

松尾芭蕉の俳号の由来でもある芭蕉の木。バナナのような実をつけます。

木漏れ日がきれいな石畳の小径。手入れの行き届いた庭の様子が伺えます。

木漏れ日がきれいな石畳の小径。手入れの行き届いた庭の様子が伺えます。

角川庭園
住所 杉並区荻窪3-14-22
電話 03-6795-6855
営業時間 9:00〜17:00
定休日 水曜、年末年始(12月29日〜1月1日)

荻窪歴史散歩のオアシス的存在「zermattツェルマット」

散歩を続けてきたので、最後はどこかで休憩を取りたいところですが、この界隈は住宅街のど真ん中。駅前とは異なりふらっと入れる喫茶店などはありません。そんな中、天然酵母のパン屋「Zermatt(ツェルマット)」は、オアシスのような場所。カフェスペースが併設され、ドリンクメニューも充実しているので、美味しいパンを食べながらのんびりと過ごすことができます。お店の魅力は、なんといってもパンのバリエーションが豊富なこと。ハード系、ふわふわ生地の甘いパン、惣菜パンやサンドイッチまで、80種類以上が揃います。泉さんもチーズ入りトレフル(270円)やチョコクロワッサン(220円)を頬張りながら、「これは美味しいね〜」と繰り返していました。荻窪駅からは少し距離がありますが、わざわざ足を運んででも食べたいこだわりのパン屋です。

赤いひさしが目印。店名のzermattとはスイスのマッターホルン山麓にある小さな町の名前のこと。

赤いひさしが目印。店名のzermattとはスイスのマッターホルン山麓にある小さな町の名前のこと。

種類が多く、どれを選んでよいのか悩んでしまいます。

種類が多く、どれを選んでよいのか悩んでしまいます。

泉さん、美味しいパンを前にして「散歩の疲れも吹っ飛ぶね」。

泉さん、美味しいパンを前にして「散歩の疲れも吹っ飛ぶね」。

天然酵母のパン Zermatt
住所 杉並区荻窪3-8-6
電話 03-3392-0667
営業時間 10:00〜19:00
定休日 不定休

取材・執筆:工藤佳一、こういち、加藤智子、磯部恵子(区民ライター講座実習記事)

※本記事に掲載している情報は2018年9月28日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。