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ミュージシャン・原田郁子さんと歩く 桃園川暗渠と銭湯

ガイドブックに載っていない知られざるスポットや見どころを巡るまち歩きが身近となっている昨今、もともと川や水路であった暗渠(あんきょ)をテーマとした散歩にも注目が集まっています。何気なく通っていた道が実は暗渠だと知ったとき、街がいつもと違って見えてくる。そんな経験を一度でも味わうと、やみつきになってしまうのではないでしょうか。
今回、杉並でそうした楽しみ方を改めてご提案するため、「すぎなみ道草のススメ・桃園川暗渠を歩く(高円寺編)」の続編を企画。阿佐ヶ谷から荻窪まで桃園川を遡るルートを選び、再び暗渠マニアックスのおふたり(高山英男さん、吉村生さん)にナビゲーターを依頼し、さらにクラムボンなどのバンド活動で知られるミュージシャン・原田郁子さんを特別ゲストにお招きしています。
ということで、前口上もそこそこに、さっそく出かけてみることにしましょう。

※歩いたルートについては、記事の最後に付した地図を参照ください。

阿佐ヶ谷弁天社から暗渠を辿って中杉通りまで

桃園川暗渠を遡るような散歩を阿佐ヶ谷から始めるなら、こちらから。かつて池を備え、湧き水が出ていたといわれる阿佐ヶ谷弁天社がスタート地点です。左から、高山さん、原田さん、そして顔出しNGの吉村さん。「なぜ、原田郁子さん?」と思う方もいらっしゃると思いますが、『緑道』(ソロアルバム“ピアノ”収録)という楽曲を作られていたり、歌詞の中に「暗渠」(クラムボン“モメントl.p.”収録『ゑゐゑん、可憐』)というズバリなワードを散りばめたりしているので、暗渠散歩をご一緒できたら最高ではないかとお声がけさせていただいたのでした(でも実は原田さんと杉並には驚きのご縁があって…そのあたりは記事の最後で紹介します)。

まずは暗渠散歩を深く楽しむためのアイテムの一つ、昔の地図をチェック。吉村さんが、池が確かに存在したことを示しながら、桃園川との関わりを話してくれます。

解説にじっくり聞き入り、おふたりが用意した資料類に目を落とす原田さん。「何が始まるんだろう(笑)?! 楽しみですね」。

この界隈、つまり池の周辺には、料亭など人が集まる場所もいくつかあったそう。この写真は、近隣に建っていたという洋食屋「弁天軒」。

阿佐ヶ谷弁天社に行くには、JR阿佐ケ谷駅北口、三菱UFJ銀行の横から始まる「阿佐谷新進会商店街」を通ります。その商店街の道を折れ、阿佐ヶ谷弁天社に向かう一角に、どこかの店に掲げられていたものと思われる看板が。池はもうありませんが、昔の阿佐ヶ谷の人たちの弁天池に対する思い入れが感じられます。

看板のところには、「ちょっと戻ってもいいですか?」とダッシュで引き返した原田さん。一同も一緒に戻ってきたのですが、ふと視線を上に向けると、弁天様が!? これは、家主さんの粋な計らいでしょうか。土地の由縁を大事にされていることがわかりますね。みなさん口を揃えて、「わぁぁ!これは気づかなかったですね。戻ってみて良かった!」。

阿佐ヶ谷弁天社の前の通りを北上し、左手の河北総合病院を過ぎて「玉乃湯」まで移動してきました。ここは、今回の暗渠散歩の最初の目的地。高山さんによると、杉並にはかつて116軒の銭湯が存在し、そのうち56軒が暗渠脇に構えていたといいます。まさに暗渠と銭湯は切っても切れない間柄。その理由も確かめていきましょう。

さっそく中に入れてもらうと、高い天井に富士山のペンキ絵が迎えてくれます。これぞ銭湯、と言うべき王道の景色が広がります。

店主の末岩尚人さんに話を伺いました。末岩さんは、こちらには婿としてやって来て、脱サラして3代目を継ぐことを決意したといいます。後継者不在で廃業してしまう銭湯も少なくない中、実に頼もしい存在です。

そんな末岩さんから「ここは昭和28年創業で…」と話が出ると、吉村さんがすかさずその当時の写真のコピーを披露してくれます。

「よくこんな写真をお持ちですね。僕は阿佐ヶ谷に来てまだ間もないので…」と控えめに話す末岩さんですが、桃園川のことは先代から伝え聞いていて、アヒルがいつも近くを歩いていたエピソードなどを教えてくれました。

暗渠沿いに多くの銭湯がある(あった)のは、第一には排水する際に便利だったから。桃園川と銭湯の位置関係などを確認するため、排水管の場所を見せていただきます。

そして、さらに奥へ通してもらいました。滅多に入ることのない、銭湯のバックヤード。昭和28年から活躍し続けるという配管などもあり、みなさん、興奮気味に。

長い時間をかけて変色してきた壁には、独特の趣きがあります。原田さんも「この朽ちている感じはやっぱり水の成分の影響ですかね。たまらないものがありますね」と、カメラを向けていました。

玉乃湯
住所 杉並区阿佐谷北1-13-7
電話 03-3338-7860
営業時間 15:00~25:00
定休日 月曜・火曜
設備 コインランドリー、マッサージ機、気泡風呂、超音波風呂、座風呂、寝風呂、電気風呂、立ちシャワー、サウナ、水風呂、ぬゆ湯、薬湯

後ろ髪を引かれつつ、「玉乃湯」を後にします。するとすぐ目の前に、コンクリート状の蓋が連続して並ぶ「暗渠蓋」が見えます。この写真のアングルで見ると、銭湯と川の名残の両方が写り込むので、撮影スポットとしても名高いそうです。

歩くペースを落として、ゆっくりと暗渠を感じながら、阿佐ケ谷駅北側の中杉通りの方面に向かって進みます。「歩いてて、わ!水が通ってる!ってわかった時があって、なんかものすごく感動したんです。ミュージシャンの青葉市子さんと一緒に、水の通り道をくねくね散歩したことがあります」と原田さんが話してくれます。

暗渠沿いを歩いていくと、段差のある蓋に遭遇。すかさず高山さんから、蓋の形状や設置されているエリアの特徴についてなど、解説が始まります。左腕に見える「暗渠ハンター」の文字は伊達じゃありません。

暗渠は川に沿っているので、曲がっていたり、このように細くなっていたり。そんな道を楽しむことが、暗渠散歩の醍醐味です。

一同、すっかり楽しそうです。

と、ここで高山さんから「NHKのアニメ『おじゃる丸』(※)はご存知ですか?」と呼び止められます。「桃園川暗渠のこの辺りが作品のモデルになっているシーンがあるんですよ」と、iPadで画像を表示してくれました。監督の大地丙太郎さんが杉並在住の暗渠ファンでもあるので、おふたりとも交流があるのだそう。

(※)現在、NHK Eテレにて、水〜金の18時〜18時10分に放送中 ©犬丸りん・NHK・NEP

「ほぉー、いいですね」。原田さん、同じアングルでパシャリ。

さて、そうこうしているうちに、広い道に出てきました。高山さんと吉村さんからは、どこが暗渠か、クイズが出題されます。写真の奥をよく見ると、突き当りで右側に向かって道がゆるやかに曲がっているのがわかりますよね。そう、この形状でかつて川が流れていたという場所、つまりここも暗渠なのです。このようにカーブが多いのは、杉並暗渠の特徴だそう。

吉村さんが古い住宅地図のコピーを取り出し、現在の風景に照らし合わせて説明してくれます。「今私たちが立っているのがこのあたりで、この川がこの道で…」。

目の前の風景と地図を交互に見ながら確認を取る原田さん。一つ一つ納得しながら、イメージも膨らませているようです。

吉村さんも腕章を装着。「暗渠を観察しています」と実直に書かれています。

この細い道は、先ほどの広い道の支流にあたります。手前に車止めも設置され、暗渠蓋も続いているので、暗渠だということが明確にわかります。「ふっと空気が変わりますよね。植物が育っていたり鉢植えがたくさん並んでたりするといいなぁと思います。地域に愛される暗渠というか」と原田さん。

この道を進んでいきます。「卯の木遊歩道」と読めますが、近隣住民が名付けて取り付けたのでしょうか。確かに愛されている感じがありますね。

数年前の卯の木遊歩道の様子を高山さんのiPadで。見事な金木犀の絨毯ですが、この木はすでに切られてしまったので、今では見ることのできない一幕とのこと。暗渠を巡る風景も刻々と変わっていきます。

さらに進み、橋の跡で高低差ができている箇所などを過ぎていきます。

カメラマンが「この場所、なんか可愛い」と集合写真を提案して撮影した一枚。杉並の暗渠スポットならではの、「止まれ」マークの動物イラストも見えます。

大量の排水を必要とするクリーニング店も、銭湯と同様、暗渠と関わりの深い商業拠点。ちなみにこちらの店は、その昔、同じ桃園川沿いの別の場所から移転してきたのではと吉村さんは考えています。抱え持つ膨大な資料から、そうした細かいことを読み解いていきます。

しっかりと舗装されていますが、こちらも暗渠です。この道をさらに進むと、阿佐ケ谷駅の北側の中杉通りにぶつかります。

中杉通りを渡り、さらに松山通りを横切り、荻窪方面へ向かいます。写真の場所の周辺は、桃園川の本流と支流が複数並行して流れていたところです。そのうち、高山さんと吉村さんはこの一本の道を選びます。なぜかというと…。

※本記事に掲載している情報は2020年2月3日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。