高円寺のスナックで全日本スナック連盟・玉袋筋太郎会長に聞く | なみじゃない、杉並! -中央線あるあるPROJECT-

高円寺のスナックで全日本スナック連盟・玉袋筋太郎会長に聞く

玉ちゃんの愛称でおなじみの浅草キッド・玉袋筋太郎さんといえば、スナック伝道の第一人者として今やひっぱりだこの存在。一般社団法人全日本スナック連盟を立ち上げ、会長として年間150軒ものスナックを巡る忙しい日々を過ごされています。そんな玉袋さんは、実は在住歴15年ほどの杉並区民。というわけで、地元杉並のスナックの魅力をはじめ、スナックのいろはについて教えを請うべく、ご指定の高円寺「スナックリリー」にお邪魔して話を伺ってきました。

スナックとの出会い

―今日はお忙しいところありがとうございます。早速ですが、まずはスナックとの出会いからお聞きしたいと思います。これはやはりご実家がスナックということが大きかったのでしょうか?

玉袋:そうそう、それもあったと思うね。オレが中学2年のとき、親父が麻雀屋から商売替えしてスナック始めたんだけど、組合の方が来るスナックだったの。ただでも、思春期だったせいもあって、なんか嫌なもんだと思っちゃったんだよな。その後、この世界に入って、最初にフランス座っていうストリップ小屋で修行したときに、そこの社長がやってるスナックの手伝いを19歳ぐらいでやらされてたわけよ。

―なるほど。高校時代には地元・新宿のラーメン店でアルバイトされてらっしゃったと本で読みました。いろんな場所に配達されてたと思うんですけど、そこにスナックもあったんですか?

玉袋:スナックは1軒くらいしかなかったかな。雀荘だとか…あとは今じゃあまり言えないところとか(笑)。そういうところにしか配達してねえかな。

―最初にスナックに行かれたのはどういう場面だったのですか?

玉袋:芸人になってはじめのうちはお金がないから、スナックにもなかなか行けないわけじゃない。だって給料4万円とかでやってるわけだから。まあ、そんな中でも、ちょっと飲みに行ったりするようになって、飲み屋で知り合ったおじさんに「じゃあ1軒行こうぜ」ってなもんで、面白がって連れてってもらったり。あと、よく師匠筋の高田文夫先生のお供でスナックに行って、「ああ、やっぱこういうとこなんだ」って思ってたよね。

―浅草の修行時代にもスナックでアルバイトされてませんでしたか?

玉袋:そうだよ。

―そのアルバイト時代の思い出は何かありますか?

玉袋:オレ、芸人になる前に、「ぜってー将来酒は飲まねえ」って決めたんだよね。

―そうなんですか(笑)!?

玉袋:そう。オレは新宿で親戚と一緒に住んでて、集まるといっつも喧嘩になるまで飲んでるわけよ。それを見て、「絶対、酒飲むのはやめよう」って思ってさ。

―お酒飲まない方は、そういう方が多いですよね。

玉袋:うん。それでフランス座で修行やらせてもらうようになったんだけど、オレ、あの頃、缶ビール1本で倒れちゃうような男だったんだから。

―そうだったんですか?

玉袋:そうそう。だけど何回かダメになるうちに他のヤツらより座持ちがいいから「あのテーブル行ってボトル開けてこい」とか言われて。で、飲むようになったんだよね。ま、それだってホント激務だよね。劇場の踊り子さん、踊り子さんって言ってもオレのおばあちゃんくらいの人たちなんだけど(笑)、その踊り子さんを目当てにしてきたお客は、オレたち(浅草キッド)の昼間のステージも見てるわけじゃない?それで、「じゃ、お前らも食えないんだから飲めよ」と。小遣いとかチップもらうんだよね。

―そういうことがあったのですね。では、玉袋さんの中で最初スナックにあった嫌悪感みたいなのが変わった瞬間というのは?

玉袋:変わった瞬間、ね。今オレは、全力でスナックを応援する全日本スナック連盟という団体をやってんだけど、オレが35歳の時に親父が65歳で死んじまってね、そのあと知り合いに新宿2丁目の店に連れてってもらった。で、そこのママ…つまりおじさんね(笑)、そのママに「うちも、スナックだったんだよ」って話しをしたら、実は十何年前、うちの親父の店に通ってたと。そんで、「すごい楽しいお店だったわよ」って言われたときに「ああ、そうだったか」と。で、とめどなく涙してしまってね。親父も家族に食わせるためにやってたと思うし、そうやってスナックで育てられたんだから、一生懸命やってる日本全国のママさんやマスターを応援したいなっていう気持ちになって、それでスナックのイベントや番組をやるようになったんだよね。

ママとの出会い

―そうしてスナックの普及活動を始められた玉袋さんですが、やはりここは杉並のスナックについてお聞きしたいと思っています。ご著書の『浅草キッド玉ちゃんのスナック案内』で最初に紹介されるのが、阿佐ヶ谷にある「ほろよい」という店で…。

玉袋:そうそう。天国に一番近いスナックね。ママが70歳以上、アルバイトレディも65歳とかで、お客さんもだいたい70歳より上。オレが一番若いわけだよね。行ったらもう「Hey! Say! JUMP」みたいな扱いされたりするんだよね。

―(笑)。そういう濃いお話がおありだろうなって思っていまして。

玉袋:はいはい。

―お住まいのエリアでありますし、なにか「他の場所と違うところ」といったものはありますか?

玉袋:まあ、高円寺、阿佐ヶ谷、荻窪、西荻窪…基本住宅地じゃないっすか。だからやっぱり、またちょっと繁華街とは違うスナックの匂いがあるよね。

―それはどういったあたりでしょう?

玉袋:やっぱり地元の人が多いってことじゃないかな。例えば井荻になるけど、「さくらざか」っていう店があって、そこは昼からやってるんだけど、毎日同じおじいさん、おばあさんがいるの。何てことはねえ、地主なんだけどさ(笑)。で、すごいんだ、昼からの熱量が。歌に対するこだわりとか熱意が、すごいんだよ。オレ、スナックでよくカラオケも歌ってるけど、この店に入ったら1曲も歌えない(笑)。それぐらい上手い地元の人がわーっと集まってくる。

―もう、地主の方たちのホームパーティーみたいになってるわけですね。

玉袋:そうだよね。

―では、こちらのリリーさんは?

玉袋:ここはまずママとの関係だね。

―あ、そうなのですね。それはぜひ馴れ初めをお聞きしたいです。

玉袋:オレが最初に下井草のマンションに引っ越したときに、そこの駐車場にハイエースを停めて青空八百屋をやってるおじちゃんがいたわけだ。オレはそのマンションに5年住んでたんだけど、そのおじちゃんと、2年くらいは全く口聞かなかったんだよ。でもある日、釣りの帰り、おじちゃんがオレに「釣りやるんだ?オレもやるんだよね。ちょっとかじったぐらいだけど」とか言ってきてさ。で、そっから「じゃあ、今度釣り行こうか?」って。

―(笑)。一緒に行ったんですか?

玉袋:一緒に伊豆に行ったんだよ。オレ、そんときメジナ釣ってたから、「メジナやってんだー」みてえな。で、一緒に釣りやってると、おじちゃん、1時間に何匹も釣るわけ。ちょっとかじったくらいじゃねえんだよ!で、聞いたら、若えころ1ヶ月に10日くらい伊豆に釣りに行ってたって(笑)。

―実はすごい方だった。

玉袋:そうこうするうちに仲良くなって、おじちゃんが野菜を並べてるハイエースの裏に隠れてビールを飲んだりするようになってね。夏場はおじちゃんがビール冷やしててくれてさ。おじちゃんと地元のおばちゃんたちの会話を飲みながら後ろで聞いてんのが、すごい好きだったの。

―いい話ですね。

玉袋:で、そのすぐ近くにママも住んでたってわけよ。いつもノーメイクで犬3匹くらい連れて散歩してて、おじちゃんが「高円寺でお店やってんだよ」って教えてくれて。で、おじちゃんがママを「リリー、リリー」って呼んでるわけよ。「何だよ、リリーっつったら『男はつらいよ』の浅岡ルリ子だよ」ってオレが言っても、「いや、リリーっつうんだよ、リリー、リリー」って。それでオレもハイエースの裏から出て、おじちゃんが「おい、リリー。玉ちゃんいるよ」とか言って声をかけて。それで話すようになってさ。

―ああ、そういうことなんですね。

玉袋:ママがまたパチンコが大好きでさ、「また負けちゃった」とか言っちゃてて。「ママ、やめなよ」って、いつもおじちゃんと説得してんだけど、まだやめてない(笑)。

―(笑)。元々ご近所さんで、おじちゃんを介して知り合ったというわけですね。ところで、失礼ですけれど、タレントの方が付き合いの浅いそういう一般の方と釣りに行くっていうのは珍しいことではないんですか?

玉袋:オレは行くよ。それからずーっと、おじちゃんと遊んでんだから。もう、それがねえと、多分、オレ乱れちゃうんだよ。ホント、業界には嫌な連中多いからさ。おじちゃんとは全然フラットな付き合いだもん。10年以上付き合ってるけど、オレ、おじちゃんの名前も知らねえんだぜ。

―カッコいい!名前知らないんですか?

玉袋:知らないよ。「玉ちゃん」「おじちゃん」だぜ。『菊次郎の夏』と被っちゃうんだけど、ホントそうなのよ。

―そういうのホントにあるんですね。

玉袋:そ。そのおじちゃんは、このリリーのママにも地元のおばちゃんたちにもすごい人望があって。

―おじちゃんは、今でもそこで八百屋をやってらっしゃる?

玉袋:やってるよ。

―おお、そうなんですね。

玉袋:だからママも今日の昼間、顔出して、この取材の話をしたらしくて。オレも今日、おじちゃんとこに顔出したんだけど、「オレ今日、リリーでやってっから、おじちゃんもおいでよ」って言ったら、「もう聞いたよ、ママから」なんて。

スナックに行き、人の話に耳を傾ける

―今回リリーさんには初めてお邪魔しているわけですが、ぜひ初心者向けにスナックの楽しみ方、流儀なども聞かせていただければ。

玉袋:流儀なんて言っちゃうと堅苦しくなっちゃうけれどね。どうなんだろう、都築響一さんがよく言うお話だけど、ま、普通に、人の家にお邪魔するみたいな感じで入ってけば、何もトラブルも起きねえかなあ。うん。人の家に入るときに「バカ野郎」なんて威張って入るヤツなんかいないでしょ。それから、店ん中でまわりがワーっと盛り上がってる中で、ちょっとポツンといる感じになると、逆に注目されることもあるよね。「若いけど、どうしたの?」なんつう話になるわけじゃん、そこでこう、溶け込んで、犬で言うところの「腹見せちゃう」感じ(笑)?

―ああ(笑)。そういう感じで良いのですね。

玉袋:スナックは全国で10万軒以上あるわけだよ。コンビニより多いんだよ。その一つ切り取った部分が杉並のスナックだと思うんだけど、まあ、ぜひとも、ちょっと行って溶け込んでみてほしいね。何も恥ずかしいことねえと思うし。若い人でスナックに取っ掛かりのねえ人っつうのは、ちょっと見方変えると面白いよ。

―と言いますと?

玉袋:ポケモンでも何でもいいんだけど、スナックではいろんな珍獣ゲットできっからさ(笑)。昭和の時代を生きてきたおじいさんやおばあさんがいて、そういう人の話を聞いたり触れ合ったりするのは、すごい重要じゃないかなって思うよ。今、年代差があるようなところに、みんな集まんねえじゃん。社長がいりゃあ無職に地主もいて、それが天下泰平で四方同席しちゃってるわけじゃない。その感じを楽しむ。で、カラオケでも「わかんねえ歌をうたってんなあ」と思ってんだけど、それも、ずーっと聞いてたら、だんだん耳に入ってくる。次に地方行ってその歌をうたったりすると、「よく知ってるね、そんな歌」って(笑)。ま、オレは「スピードラーニング」って呼んでんだけど、おじさんおばさんの歌を聞き流して体に入れてく、と。

―スピードラーニング(笑)。

玉袋:さっき言ってた「ほろよい」みたいな店だとさ、おばあちゃんになってたり、子育てをとっくに終えたおばちゃんたちが、いっぱい働いてるんだよ。そうすると「あそこんとこの息子は昔グレてたんだけど、それが俳優になったよ」とか、「どこそこの病院、昔は入院したら死んじゃうって言われてたけど、今はいいよ」とかさ。そういう話が入ってくんだよね。

―超ローカルネタですね。

玉袋:そう。地方行ってもそういう話は全部聞けるわけだし。

―そこがどういう街なのか、初めてやって来てもスナックの話の中から浮き上がってくるという。

玉袋:オレ、旅に行くといつも思うのが、みんな旅行雑誌とか見てさ、いいホテルや旅館に泊まって、船盛り食って帰っちゃうじゃん。それだけじゃダメだと。やっぱその街のスナックに夜繰り出して地元の人の声を聞き、それで初めて、旅が完成すると。

―なるほど。

玉袋:杉並だってね、泊まれるとこも、スナックだってしっかりあんだから、ちょっと旅気分で来てもらうのは面白いかもしれないね。なみじゃねえんだ、杉並も!って。

―ありがとうございます(笑)。街を楽しむということのひとつのゴールというか、そういう場としてスナックはあると。

玉袋:あると思いますよ、ホント。でもこの仕事、やってて何が楽しいってさ、やっぱスナックに行ったら、それぞれいろんなママがいて、ママの背景とかプロファイリングできるじゃない?それだけでも非常に面白いよね。一番はやっぱりママ。

スナックの味わい方

玉袋:で、結局なんでスナック文化が廃れたかっていうとね、いい時代もあったわけだけど、要するに上司が部下を連れてって、威張って飲ましていたということだったんだよ。

―なるほど。

玉袋:それで部下としては「連れて行かれた」っていう気持ちになっちゃうわけだよ。嫌だったっていう思い出があると思うんだけど、でも年を重ねたら、その考えを変えてくれと。「連れてってもらった」っていうふうに考えを変えれば、すごいイメージが変わると思うんだよね。

―そうすれば、上司がドアを開けるんじゃなくて、自分で開けて入る形になると。

玉袋:そうそう。そっから馴染んで、若い人たちだけでも行けるようになるとかさ。そのバトンタッチができてないのよ。オレ、今50歳なんだけど、そういうのを若い人たちに教えたい、伝えたい。伝えねえと、この文化が全部廃れてしまうので。それもオレの原動力かも知んねえなあ。

―まさにスナック伝道師!

玉袋:それに発祥が日本でしょ?海外行ったって、ロンドン、パリ、ニューヨーク、こんなのどこにもないよ。日本で生まれて、日本の風習を含んだこの文化を、次世代にバトンタッチしたいと思う。うまくいったら、多分20代の子たちでも「スナックやりてえ」とか言いだすと思うんだよね。つまんねえ会社で働かされるより、自分が一国一城の主になって、身の丈だけで暮らせるっていうのって、多分スナックだと思うんだよ。だってスナックのママっていっぱいいるけど、別に「アストン・マーチン買いたいわ」ってやってる人いないからさ。

―確かにそうですよね。でも一方で入りにくさっていうのは、ひとつにはお金の面の心配もあるんじゃないかなと思うんですが。

玉袋:それはもう、わかんねえんだったら最初にドア開けて聞いちゃえって。その聞くことに躊躇しちゃう人間が多いわけじゃん、全部スマホで調べられちゃうから。ま、多少の冒険心とリスクは、しょうがねえんだよ。いいとこだけ取るのは、オレはズルいと思うんだけど。

―そうですよね。

玉袋:命まで取られないよ(笑)。で、ヤクザがいるんじゃねえかってみんな言うけど、いない!それはイメージ!値段も高いとか。違う、全部ママの言い値(笑)!そのグレーゾーンがいいわけだよ。税務署にどうやって申告してんのか分かんないぐらい(笑)。そこも突っ込まない!

―(笑)。取り敢えず初心者は、「全日本スナック連盟」のステッカーが貼ってある店がいいですよね。

玉袋:そうそう。そっから入って、あとは自分で嗅覚使って。ま、オレがよく言うカーナビならぬ「ハーナビ」を利かせて、「この店いいんじゃねえか?」って、入って行く能力を高める。やっぱねえ、スマホだけに頼っちゃうと、人間って五感を失ってくるんですよ。だから、携帯がない頃なんて電話帳が頭の中入ってたじゃない?今はもう記憶することも出来なくなっちゃってる。それが、衰えてるってことだから。ぜひとも、自分の感覚を鍛えてほしいなってのは、思うね。

―スナックの失敗談っていうのはありますか?

玉袋:失敗も成功だから(笑)。くっだらねえんだよ。あるおじさんとさ、カウンターで最初は意気投合して飲んでるわけ。そしたら、そのおじさんが『男はつらいよ』が好きだっていう話になって、「おう、オレも好きだよ」「いいよな」なんつって。「じゃあ、マドンナは誰がいい?」「あいつだ」「いや、何言ってんだお前。あのマドンナだ」って、ちょっと前まで意気投合してたのに、最後、取っ組み合いになっちゃって(笑)。ママに止められて、「二人ともダメ―!帰って!」なんて言われて、辛いんだ、これが。

―(笑)。

玉袋:だって、もうほら、憩いの場でしょう?水飲めるオアシスでしょう?そこが枯渇したらもう、生活問題っていうか、自分の生命の危機を感じる訳だよ。だけど次の日、「あ、いけね。詫び入れなきゃ」って、エクレアとかシュークリーム買って行くわけだよ。「すみませんでしたー」なんつって。そうすっとママも「まあまあ、あの人もさ、結構飲んでたし。玉ちゃんも飲んでたし。いい、いい!まあ気にしないで飲んできなよ」「すみません!」ってやってると、揉めたヤツが今度、カステラ持って入って来る訳だよ(笑)。「おう!」なんつって。で、仲直りなんかしちゃってね。

―なんだか落語みたいですね(笑)。

玉袋:そういったものがね、スナックには残ってるね。

―なるほど。独身や単身の人には、特にスナックという場所が機能しそうです。

玉袋:そうそう。例えばそこでさ、自分の同郷の大先輩がいたりなんかして、そうすっと可愛がられるからね。失われたものがあるんだ、スナックってのは。

クリックよりスナック

―玉袋さんは荻窪の「カッパ」がお好きだとラジオで聞いたことがあるんですけど、いわゆるそんな昭和風情の居酒屋の常連になっていくことの心地よさっていうのもあるじゃないですか。

玉袋:おう、あるある。

―ああいう昭和酒場と、こういうスナックと、似ているところ違うところ…何か思う所ありますでしょうか?

玉袋:それは一緒かもしんないね。

―やっぱりそうですか。

玉袋:「カッパ」ってさあ、コの字のカウンターにお客がズラッと並んでてさ、長っ尻しねえわ、自分の好きなのをパッパッと少しずつ頼んでるわ…美しいじゃん、アレ。昔、初めて行った時はそういうことがわかんなくてさ、仲間と3人ぐらいで行って、串ごっそり頼んじゃって。そうすると焼き台のオヤジが怒ってさ。顔に書いてあるわけよ。寿司屋と同じで「1本ずつ焼くからすぐ食べてほしい」と。そうすっとほかの客も「野暮ってえのがいるなあ」って。言いやしないけど、顔を見ると「あ、これ、お呼びじゃねえな」ってわかるんだよ。で、だったらそっちまで行ってみたいと。入門した以上は帯の色変えて行きたいっていう気持ちになるね。あそこはコの字で、トイメンに知り合いいても、「おう」って手を少し挙げるだけでいいしさ。テレビで相撲が流れてたら、「あ~」「う~ん」でね。ま、阿吽(あうん)というか。スナックもそれを広げてる感じかな。基本は一緒。

―なるほど。

玉袋:スナックも、そういうことあるわけだよ。歌ってるときにエール送ったりとかさ。お店でもちょっと席の後ろを通るときとか、「あ、どうも」って、自然と椅子をずらしてさ。

―わかります、わかります。

玉袋:うん。江戸しぐさかなんかわかんないけどさ、そういうのができる人に、しびれるんだよね。まあ、スナックには残ってると思うよ。

―そういうのは「空気を読む」っていうのとは違いますものね。

玉袋:何だろうね。例えばエレベーターで先乗っちゃって、ワーッと後ろから乗って来る人がいたら、自分が開くボタン押してるとするじゃん。そん時にさ、こっちは早く移動したいにも関わらず、悠然と入って来るバカいるじゃん(笑)。ああいうのにはなりたくないんだよね。嘘でもいいから小走りの真似でもしてくれたら、押してて良かったと思うわけだよな。「めんどくせえや」っていう人もいるかもしれないけど、オレはそれが許せないんだよね。

―何ですかね、所作というか、そういうものを場としてスナックは持ってるんですかね?

玉袋:まだそのエネルギーが残ってると思うよ。話はちょっと飛ぶけど、オレ今、競輪を応援しててさ、去年の12月31日に競輪の専門チャンネルの「競輪ゆく年くる年」っていう番組があったわけ。それで終わったらすぐ新年会になってさ。中野浩一さんとか吉岡稔実さんだとか、すごい人がいっぱいいて。あと若手の選手もたくさんいるんだけど、飲んでる時間、誰一人スマホ見てなかったのよ。その美しさに、オレちょっと感動しちゃって。ま、もともと競輪選手って、開催中は通信機を全部取り上げられちゃうんだけどね。でも、その時は、今いるスナックで飲み会だけを楽しもうっていう人たちばかりで、ちょっと感動しちゃったね。

―要するに、そういうことなんですね。

玉袋:そういうことだと思う。カラオケボックスも、人が歌ってるとき、次の曲選んでるわけじゃん。そういうのに気持ち悪さを感じて、スナックに傾倒してったのかな。何度も言ってっけど「クリックよりスナック」と。

―いただきました(笑)。「クリックよりスナック」。

玉袋:けだし名言、と(笑)。

―はい(笑)。

玉袋:商売としては、マニュアル化して最短時間で送り出してお金を取るというのが利益追求の原理なのかもしんねえけど、スナックには、それ、ねえから。

―スナックはそういった原理からはかけ離れている。

玉袋:でも、ちゃんとした文化としてあるわけ。

―それが10万軒あるという…。すごい数ですよね。

玉袋:コンビニより多いけど、フランチャイズになってないんだから(笑)。みーんな、それぞれが自分ところの暖簾をかけてやってるわけだから。そこがいいんだよね。

スナックの未来活用

―最近『ブルータス』や『Hanako for Men』のようなオシャレな雑誌でもスナック特集が出るくらいで、スナックがプチブームになっている気もします。必ず玉袋さんがフィーチャーされているわけですが。

玉袋:みんなねえ、手当たり次第に手を出し過ぎたんですよ。ラーメンにしても、B級グルメにしても。そんときに、自分としてはスナックをずっと応援してたんで。

―でもそういう流行りにするつもりでやられてたわけじゃないですよね。

玉袋:全然そんなわけじゃないよ。

―時代の方が後からついてきたっていう。

玉袋:そう。でも今思い返してみりゃ「手つかずの自然を手に入れたんだな」って(笑)。まだまだ杉並にもたくさん手つかずの自然はあるよ。

―そういう言い方ができるわけですね。

玉袋:若い人にとってみりゃ、まだ入ったことねえんだったら手つかずの自然じゃん。

―そりゃそうですね(笑)。ところでそうした自然が新たに発生する、つまり新規開店するスナックは、今あるんですか?

玉袋:う~ん、それはなかなかないね。だからそこは手薄じゃねえの?逆に。杉並の中央線沿線でお店やるの、手薄だからいいと思うよ。

―若い女性が居抜きの店でママをやる、みたいな?

玉袋:そうそう。

―そういう方の相談に乗ったりしますか?

玉袋:それを全日本スナック連盟としてバックアップしようと思ってますよ。あと、最近の貧困問題に関する番組なんかを見てたらさ、なんかこう、セーフティーネットになりたいと思ったんだよね。例えば、レジ打ちよりスナックで働く方が少しは時給いいと思うし。オレらの年代は、両親がスナックみたいな水商売やってるって、やっぱ後ろめたかったのよ。今もう、そういうこと言ってる場合じゃないよね。

―セーフティーネットっていうのは、ある意味、大胆な考え方ですね。

玉袋:そうそう、それを押してこうと思ってね。

―なるほど。でも、こういうスナックみたいな場所で働くことは、玉袋さんのこれまでの話ですと、いろんな人と接して社会勉強ができる…ということですよね。

玉袋:そうそう、それなんだよ。会社ってさ、新卒社員を山奥の研修所かなんかに入れて、娑婆っ気抜くわけよ。そんな研修より、ぜってえ2週間スナックでアルバイトレディやらせた方が、いい子育つと思うよ。だって、マニュアルがねえんだから。どんな順応性でも育つし。ああいう新人研修って、縦の動きしかないんすよ。でも、スナックでアルバイトやってる女の子って、もう、全盛期のマイク・タイソンじゃねえけど、頭、ヘッドスリップして、それで相手のふところ入ってガツーンって入れるとかさ。そういう術が覚えられると思うのよ。

―では今後は、全日本スナック連盟としては、そういう若い人たちに向けての活動をしたいと?

玉袋:そうそう。で、その意味では、杉並が手薄だと思う。

―手薄なんですね(笑)。

玉袋:そう思う。杉並にスナックとかがなくなったら、街として落ちるよ(笑)。

―スナックがなくなったら?

玉袋:うん。いやな街になっちゃうよ。こないだロケで地方の新しくできた住宅街に行ったんだよ。キレイに道路も整備されてて、小高い丘や公園とか巨大スーパーがあってね。ラブラドール犬を連れてる人とか、マクラーレンの乳母車に乗っけてるマダムなんか、いるわけだよ。パッと見は、いい街だねえって思ったけど、5分いたら「気持ち悪い!こんな街に、ぜってえ住めねえ」って思ったもんね。

―なるほど。

玉袋:要するに杉並には、高円寺、阿佐谷、荻窪、西荻窪、すべて飲んべえ街があるじゃん。それがあるっていうのは、誇りだと思ってほしい。

―ありがたい言葉をいただきました。

玉袋:でしょ?「カッパ」の周りだって開発されちゃったらおしまいだけど、自分で持ってるヤツが多いから開発できないんだよ。それがあるのは、誇りだよ。杉並の。

―ありがとうございます(笑)。

玉袋:ようやく出た、答えが。だって、どこ行ったって駅前、一緒だからね。チェーンの居酒屋、高層マンションの2階にスポーツジムって、日本全国そうなっちゃってっから。でも、この杉並には「まだ残ってるよ」っていうところが、実はいいんじゃねえの?

スナックリリー(高円寺駅徒歩3分)

今回お邪魔した「スナックリリー」は、1964年オープンという老舗中の老舗スナック。駅から南に伸びる高南通りを一本西側に入り、古着屋が居並ぶエリアに位置しています。元踊り子で、高円寺の街の歴史もよく知る村井澄子ママが切り盛りするアットホームなお店で、スナックビギナーでも気軽に楽しむことができます。次の東京オリンピックイヤー2020年を見据えて、現役で頑張るママにぜひ会いに行ってみてください。セット料金は3,000円(ミネラルウォーター、氷、お通し込み)、一人あたりの平均予算は約5,000円。

ムーディーな紫の看板がお店の目印。

ムーディーな紫の看板がお店の目印。

奥行きのある店内。カウンターには毎日来るという常連さんたちが。

奥行きのある店内。カウンターには毎日来るという常連さんたちが。

取材日のおつまみはこれ。後ろに置かれた「ねをん」は玉袋さんプロデュースのスナック向け焼酎。

取材日のおつまみはこれ。後ろに置かれた「ねをん」は玉袋さんプロデュースのスナック向け焼酎。

カウンター越しにママと乾杯。

カウンター越しにママと乾杯。

スナックリリー
住所 杉並区高円寺南4-24-12
電話 03-3316-0083
営業時間 20:00〜25:00
定休日 日・祝

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※本記事に掲載している情報は2017年03月10日公開時点のものです。閲覧時点で情報が異なる場合がありますので、予めご了承ください。